『クロノス日本版』編集部おすすめの、「機械式」時計の楽しさを存分に味わえるモデル
2025年で創刊20周年を迎える、時計専門誌『クロノス日本版』。専門誌として時計と向き合い続けてきた編集部が読者におすすめするのは、どのようなモデルなのだろうか? 小誌のWEB媒体であるwebChronosでは、そんな編集部のメンバーが、決められたお題に沿って各自2本ずつおすすめ時計を紹介するという企画を行っている。
第8回目となる今回のお題は、「『機械式』時計の楽しさを存分に味わえるおすすめモデル」だ。
利便性の高いクォーツ式時計が出回る昨今。しかも現代クォーツモデルは進化が加速しており、かつて機械式時計と比較して「針を回す力が弱い」「修理して末永く使える個体が少ない」などといった弱点を克服したものも打ち出されている。そんな時代においてなお、あえて機械式時計を選びたくなるような、機械式であることの愉悦を存分に味わえるようなモデルを、その理由とともに選定している。
『クロノス日本版』およびwebChronosの編集長であり、時計ハカセの愛称も持つ広田雅将が選ぶのは、A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ」とハミルトン「カーキ アビエーション パイロット パイオニア」である。
A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ」
A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ アップ/ダウン
A.ランゲ&ゾーネ「ダトグラフ・アップ/ダウン」Ref.405.028
2012年に発表された改良版。パワーリザーブが約60時間に伸び、フリースプラングテンプを持つCal.951.6を搭載する。ただ個人的な好みを言うと6時位置のパワーリザーブ表示は蛇足だ。手巻き(Cal.L951.6)。46石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ13.1mm)。3気圧防水。世界限定125本。価格要問い合わせ。 (問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080
時計の歴史にあって、ロレックス時計コピー Nランク 代金引換を激安初めて機械式であることの意味を謳い上げた時計が「ダトグラフ」と思っている。
搭載するCal.L951以前、すべてのクロノグラフムーブメントは、プレスで部品を打ち抜き、その部品を全体に散らすという設計を持っていた。好例はバルジューのCal.72、レマニアのCal.2310、フレデリック・ピゲのCal.1185系や、Cal.ETA7750だろう。一方、Cal.L951は、ワイヤ放電加工機を駆使することで、今までにはなかった、大きく湾曲したレバーや規制バネを持てるようになった。また秒針と積算計を6時方向に下げるレイアウトは、結果として、重層的な造形をムーブメントにもたらした。理屈で言えば、曲がったレバーも込み入ったレイアウトも、計測機械には全くふさわしくない。しかしあえて、造形のためにすべて振り切ったところに、ダトグラフの魅力があると思っている。史上これほど、機械式時計であることに開き直った時計はないだろう。
正直筆者は、ダトグラフの機械を良いと思ったことは一度もない。しかし、これ以上好きなクロノグラフムーブメントがないのもまた、事実なのである。ちなみに昨年、A.ランゲ&ゾーネの工場長であるティノ・ボーベさんと飲む機会があった。「なぜA.ランゲ&ゾーネの復興25周年に、色だけ変えたダトグラフを出したんですか?」「これ以上完成度の高いムーブメントは、もういじらなくていいでしょう」。全く同感です。
ハミルトン「カーキ アビエーション パイロット パイオニア」
ハミルトン カーキ アビエーション パイロット パイオニア
ハミルトン「カーキ アビエーション パイロット パイオニア」Ref.H76719530
今や絶滅危惧種のユニタスを載せた機械式時計。古典の味わいを残しながらも、10気圧防水とかなり実用的だ。また価格も大変魅力的である。手巻き(Cal.ETA 6498-1)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径43mm、厚さ13mm)。10気圧防水。18万7000円。(問) ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371
クォーツに比べて相対的に長持ちするのが、機械式時計の魅力のひとつだ。もちろん長寿命で、何度ものメンテナンスに耐えられるクォーツは存在するが、決して数は多くない。そんな機械式時計にあって、一層長寿命なのが、大きなムーブメントを載せた時計だ。少し乱暴な物言いになるが、同じ距離を50ccのバイクと、5000ccの車で走った場合、後者の方が機械的な痛みは小さいだろう。時計も同様だ。“エンジン”の大きい方が、摩耗は小さく、長持ちするのである。
ハミルトンの「カーキ アビエーション パイロット パイオニア」が搭載するCal.ETA(旧名ユニタス)6498-1は、そもそも懐中時計用に設計されたムーブメントであり、しかも基本設計は1930年代、直接的には1960年代後半にさかのぼる古典中の古典だ。昔の懐中時計のエンジンがそのまま載っていると考えれば、壊れにくいだけでなく、かなりの長寿命を期待できるだろう。実際筆者は、Cal.6497とその姉妹機であるCal.6498搭載機をかなり買ってきたが、不具合に見舞われたのは一回のみである。
しかもこの「ユニタス」搭載機は、意外と精度も悪くない。事実、高振動版のCal.6497とCal.6498-2には、なんとクロノメーター版さえ存在していた。加えて、ムーブメントが大きいためか、長期間使っても精度が落ちにくかったのである。普通のグレードであっても、筆者が使った印象を言うと、精度は総じて良好だ。
そんなユニタスだが、残念ながら今採用する時計は数えるほどしかない。このムーブメントの設計を転用したフランスのベルテ、そしてハミルトンを含む、スウォッチ グループの一部メーカーのみである。耐久性に優れ、精度も悪くないのに今や絶滅危惧種となったのは、直径が37.8mmもあるためだ。
正直、Cal.6498を搭載したカーキも、どこまでラインナップに留まるかは疑わしい。というわけで、いかにも機械式時計を探している人は、ぜひこの時計を手にしてほしい。主ゼンマイを巻いた感じも、いかにも昔の時計を触っているようで良いのである。
ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ」
ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ」Ref.VCARPBJM00
自動巻き(Cal.400)。パワーリザーブ約36時間。18KWGケース(直径38mm)。3気圧防水。4276万8000円(税込み)。(問)ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク Tel.0120-10-1906
2022年発表の3年前のモデルであるが、「機械式時計の楽しさを味わえるモデル」というお題を目にして、まず頭に浮かんだのが、この「レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ」だ。文字盤上に咲くスリジエ(桜)の花の数によって時刻を表示する遊び心。「ポエトリー オブ タイム(詩情が紡ぎ出す時)」というコンセプトを持つ「ポエティック コンプリケーション」コレクションにおいて、次々と詩的な複雑機構を、メゾンが誇るエナメル技術などのサヴォアフェールとともに、文字盤上に紡いできたヴァン クリーフ&アーペルのひとつの到達点であり、文字通りの傑作だと思っている。
文字盤上で開花する桜の花は全部で12輪。それが毎正時に、その時刻のアワー(時)の数だけ、パッと花を咲かせることで、現在時刻を表現するという発想はいかにも華やかで心躍るものだ。しかも、毎正時に開花する花は毎回同じ位置の花が咲き、その数が増えていくのではなく、一見、毎正時ごとにまったく違う位置の花がランダムに咲くように見せている。それが、このモデルを詩的なうえに優雅に見せ、さらに傑作たらしめている大きな理由だ。